東京高等裁判所 平成11年(行コ)68号 判決 1999年9月29日
控訴人 セキスイハイム東海株式会社
被控訴人 浜松西税務署長
代理人 松本真 安岡裕明 ほか二名
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が平成七年一一月二〇日付けでした控訴人の平成七年分の地価税に係る無申告加算税の賦課決定処分を取り消す。
二 被控訴人
主文第一項と同旨。
第二事案の概要
本件は、控訴人が、被控訴人は、控訴人に対し、平成七年分の地価税(以下「本件地価税」という。)に係る無申告加算税の賦課決定処分(以下「本件処分」という。)をしたところ、(一) 控訴人は、平成七年分の地価税一五七万五七〇〇円を法定申告期限内である平成七年一〇月三一日に納付したので、平成七年分地価税の申告書を法定申告期限後である同年一一月七日に提出して同年分の地価税を申告したとしても、被控訴人は、無申告加算税を賦課すべきでない、(二) 控訴人は、被控訴人の税務調査の前に、平成七年分地価税の申告書を提出して同年分の地価税を申告したので、被控訴人が賦課した無申告加算税の税率は誤っている、などと主張し、被控訴人に対し、本件処分の全部又は一部の取消しを求めた事案である。
建設工事業を営む株式会社である控訴人は、控訴人の前年の関与税理士であった高見功祐税理士(以下「高見税理士」という。)をして、平成七年一〇月三一日、平成七年分の地価税と記載のある納付書によって、被控訴人を通じて国に対し、一五七万五七〇〇円を支払った。しかしながら、高見税理士は、平成七年分地価税の申告書の提出を失念し、これが判明した同年一一月七日、被控訴人に対し、地価税の額を一五七万五七〇〇円と記載した平成七年分地価税の申告書(以下「本件申告書」という。)を提出した。これに対し、被控訴人は、控訴人に対し、平成七年一一月二〇日付けで、平成七年分の地価税に係る無申告加算税の額を二三万五五〇〇円とする本件処分をし、その通知書は、同月二一日、控訴人に送達された。
控訴人は、本件処分を不服として、平成八年一月二〇日、被控訴人に対し、異議申立てをしたところ、被控訴人は、同年四月一七日付けで棄却決定をし、また、控訴人は、右棄却決定を不服として、同年五月七日、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたところ、国税不服審判所長は、平成九年九月三〇日付けで審査請求を棄却する旨の裁決をした。
本件における争点は、(一) 被控訴人には、本件処分について、無申告加算税の算定の基礎となる納付すべき税額の算定を誤った違法があるか否か(争点1)及び(二) 被控訴人には、本件処分について、無申告加算税を賦課するに際して適用すべき税率を誤った違法があるか否か(争点2)、の二点である。
原審は、控訴人の請求は理由がないとしてこれを棄却した。
控訴人は、原判決には誤りがあるとして、本件控訴を提起し、原審における主張を敷延しつつ、争点1(被控訴人には、本件処分について、無申告加算税の算定の基礎となる納付すべき税額の算定を誤った違法があるか否か)について、(一) 控訴人は、法定申告期限後である平成七年一一月七日、本件申告書を提出したが、同年一〇月三一日、地価税額一五七万五七〇〇円を納付しているので、本件においては、地価税額を納付した右同日にさかのぼって地価税の額が確定したものと取り扱うべきであり、そうすると期限後申告書によって納付すべき税額は零となる、(二)(1) 所得税の確定申告においては、予定納税額は年間の所得に係る所得税額から控除して申告書に記載するものとされているが(所得税法一二〇条一項七号)、右控除すべき予定納税額は、国税通則法五九条一項一号の予納額に該当し、その取扱いは、期限内申告と期限後申告において区別されていない、(2) 国税通則法五九条一項一号の予納額と同項二号の予納額は、国税として納付する旨を税務署長に申し出て納付する適法な納付であることを理由として還付請求することができないとされているのであるから、これら予納額の法的性格を別異に取り扱うべきでない、(3) したがって、控訴人が平成七年一〇月三一日にした納付が国税通則法五九条一項二号の予納額に該当するとすれば、本件申告書による申告が期限後申告であったとしても、納付すべきものとして記載した税額から右予納額を控除すべきである、(三)(1) 国税通則法基本通達五九条関係四は、国税の予納をした場合において、その国税に延滞税又は利子税が課されるときは、その延滞税又は利子税の計算の終期は、予納をした日とする、としている、(2) したがって、控訴人が平成七年一〇月三一日にした納付が予納に該当する場合であっても、附帯税である延滞税等と同様に、無申告加算税についても予納額分について賦課されるべきではない、(四) 控訴人が平成七年一〇月三一日に納付した地価税額一五七万五七〇〇円のうちには、同年一一月一日以降平成八年三月三一日までの期間の地価税額七八万七〇〇〇円が含まれているので、所得税に係る予定納税額の第二期分と同様に、国税通則法五九条一項一号に規定する予納額として取り扱うべきである、などと主張し、また、争点2(被控訴人には、本件処分について、無申告加算税を賦課するに際して適用すべき税率を誤った違法があるか否か)について、被控訴人の資産税担当者は、控訴人が本件申告書を提出した平成七年一一月七日までに、本件地価税に係る調査に着手した事実はなく、控訴人の期限後申告書の提出は、国税通則法六六条三項の調査があったことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでない場合に該当するから、控訴人に賦課される無申告加算税の額は、当該納付すべき税額に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した金額によるべきである、などと主張する。
争点についての控訴人の主張を含む本件事案の概要は、原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」欄記載のとおりであるから、これを引用する。
第三争点に対する判断
当裁判所も、被控訴人が国税通則法六六条一項一号に基づいてした本件処分には、無申告加算税の算定の基礎となる納付すべき税額の算定や無申告加算税を賦課するに際して適用すべき税率を誤った違法はなく、したがって、本件処分の取消しを求める控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は、次に付加するほか、原判決「事実及び理由」の「第三 争点に関する判断」欄記載のとおりであるから、これを引用する。
一 争点1(被控訴人には、本件処分について、無申告加算税の算定の基礎となる納付すべき税額の算定を誤った違法があるか否か)について
1 国税通則法六六条一項は、「次の各号の一に該当する場合には、当該納税者に対し、当該各号に規定する申告、更正又は決定に基づき第三五条第二項(期限後申告等による納付)の規定により納付すべき税額に一〇〇分の一五の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する。」、「一 期限後申告書の提出又は第二五条(決定)の規定による決定があった場合」と、また、同法三五条二項は、「次の各号に掲げる金額に相当する国税の納税者は、その国税を当該各号に掲げる日(延納に係る国税その他国税に関する法律に別段の納期限の定めがある国税については、当該法律に定める納期限)までに国に納付しなければならない。」、「一 期限後申告書の提出により納付すべきものとしてこれに記載した税額又は修正申告書に記載した第一九条第四項第三号(修正申告により納付すべき税額)に掲げる金額(その修正申告書の提出により納付すべき金額が新たにあることとなった場合には、当該納付すべき税額)その期限後申告書又は修正申告書を提出した日」と規定しているところ、(一) 控訴人は、高見税理士をして、平成七年一〇月三一日、平成七年分の地価税と記載のある納付書によって、被控訴人を通じて国に対し、一五七万五七〇〇円を支払ったが、高見税理士は、平成七年分地価税の申告書の提出を失念し、これが判明した同年一一月七日、被控訴人に対し、地価税の額を一五七万五七〇〇円と記載した本件申告書を提出したこと、(二) 被控訴人は、右納付書による納付について、納付書において平成七年分の地価税と指定されていたことから、国税通則法五九条一項二号の「最近において納付すべき税額の確定することが確実であると認められる国税」の予納額として取り扱い、控訴人が、平成七年一一月七日、本件申告書を提出したことにより、右予納額を確定税額に充当したこと及び(三) 被控訴人は、控訴人に対し、同月二〇日付けで、国税通則法六六条一項に規定する「第三五条第二項(期限後申告等による納付)の規定により納付すべき税額」を本件申告書に記載された一五七万五七〇〇円と認め、これを基礎として、本件地価税に係る無申告加算税の額を二三万五五〇〇円とする本件処分をしたことは原判決の認定するとおりである。
2 控訴人は、法定申告期限後である平成七年一一月七日、本件申告書を提出したが、同年一〇月三一日、地価税額一五七万五七〇〇円を納付しているので、本件においては、地価税額を納付した右同日にさかのぼって地価税の額が確定したものと取り扱うべきであり、そうすると期限後申告書によって納付すべき税額は零となる旨主張する。
しかしながら、国税通則法一七条一項は、「申告納税方式による国税の納税者は、国税に関する法律の定めるところにより、納税申告書を法定申告期限までに税務署長に提出しなければならない。」と規定し、また、地価税法二五条一項は、「課税時期において土地等を有する者は、その年の課税価格が基礎控除の額を超えるときは、その年一〇月一日から同月三一日までの間に、税務署長に対し、次に掲げる事項を記載した申告書を提出しなければならない。」、「一 その年の課税価格及び基礎控除の額」、「二 地価税の額」、「三 その他大蔵省令で定める事項」と 同法二八条一項は、「第二五条第一項の規定による申告書を提出した者(次項の規定に該当する法人を除く)は、当該申告書に記載した同条一項二号に掲げる地価税の額があるときは、当該申告書の提出期限までに、当該地価税の額の二分の一に相当する金額の地価税を、当該申告書の提出期限の属する年の翌年三月三一日(当該申告書が同条第二項若しくは第三項又は第二六条の規定に係るものであるときは、これらの規定に規定する提出期限の翌日から五月を経過した日の前日)までに、当該地価税の額から当該二分の一に相当する金額を控除した残額に相当する地価税を国に納付しなければならない。」とそれぞれ規定しているのであって、これらの規定によれば、(一) 地価税は、申告納税方式によって納付すべき税額が確定する国税であること及び(二) 納税申告は納税義務を確定させることを主たる目的とする課税標準及び税額等の申告であって、申告書の提出によってする要式行為であることは明らかである。そうすると、控訴人が、平成七年一〇月三一日に、平成七年分の地価税と記載のある納付書によって、一五七万五七〇〇円を納付したことをもってしても、本件地価税について、法定申告期限内に申告があったと評価することはできず、また、控訴人が、同年一一月七日に、本件申告書を提出したことをもってしても、本件地価税について、同年一〇月三一日にさかのぼって確定したと評価することはできない。
よって、控訴人の右主張は、失当であって、採用することができない。
3 控訴人は、所得税の確定申告においては、予定納税額は年間の所得に係る所得税額から控除して申告書に記載するものとされているが、右控除すべき予定納税額は、国税通則法五九条一項一号の予納額に該当し、その取扱いは、期限内申告と期限後申告において区別されていないところ、国税通則法五九条一項一号の予納額と同項二号の予納額は、国税として納付する旨を税務署長に申し出て納付する適法な納付であることを理由として還付請求することができないとされているのであるから、これら予納額の法的性格を別異に取り扱うべきでなく、控訴人が平成七年一〇月三一日にした納付が国税通則法五九条一項二号の予納額に該当するとすれば、右予納額は、期限後申告であったとしても、納付すべきものとして記載した税額から控除すべきである旨主張する。
しかしながら、所得税法一〇四条一項は、「居住者(第一〇七条第一項(特別農業所得者の予定納税額の納付)の規定による納付をすべき者を除く。)は、第一号に掲げる金額から第二号に掲げる金額(以下この章において「予定納税基準額」という。)が一五万円以上である場合には、第一期(その年七月一日から同月三一日までの期間をいう。以下この章において同じ。)及び第二期(その年の一一月一日から同月三〇日までの期間をいう。以下この章において同じ。)において、それぞれその予定納税基準額の三分の一に相当する金額の所得税を国に納付しなければならない。」と規定し、また、国税通則法一五条二項は、「納税義務は、次の各号に掲げる国税(第一号から第一四号までにおいて、附帯税を除く。)については、当該各号に定める時(当該国税のうち政令で定めるものについては、政令で定める時)に成立する。」、「一 所得税(次号に掲げるものを除く。)暦年の終了の時」と、国税通則法施行令五条は、「法第一五条第二項(納税義務の成立時期)に規定する政令で定める国税は、次の各号に掲げる国税(第一号から第一〇号までにおいて、附帯税を除く。)とし、同項に規定する政令で定める時は、それぞれ当該各号に定める時とする。」、「一 所得税法第二編第五章第一節(予定納税)(同法第一六六条(非居住者に対する準用)において準用する場合を含む。)の規定により納付すべき所得税(以下「予定納税に係る所得税」という。)その年六月三〇日(予定納税に係る所得税で同法第二条第一項第三五号(定義)に規定する特別農業所得者に係るものについては、その年一〇月三一日)を経過する時」と、さらに国税通則法一五条三項は、「納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税は、次に掲げる国税とする。」、「一 所得税法第二編第五章第一節(予定納税)(同法第一六六条(非居住者に対する準用)において準用する場合を含む。)の規定により納付すべき所得税(以下「予定納税に係る所得税」という。)」とそれぞれ規定しているところ、これらの規定によれば、予定納税に係る所得税の税額は自動的に確定すると解することが相当である。そうすると、申告納税方式によって納付すべき税額が確定する国税である地価税と、自動的に確定する国税である予納税額に係る所得税の税額とは、その税額の確定方式という前提において異なることは明らかである。
よって、控訴人の右主張は、その前提において失当であって、採用することができない。
4 控訴人は、国税通則法基本通達五九条関係四は、国税の予納をした場合において、その国税に延滞税又は利子税が課されるときは、その延滞税又は利子税の計算の終期は、予納をした日とする、としているから、控訴人が平成七年一〇月三一日にした納付が予納に該当する場合であっても、附帯税である延滞税等と同様に、無申告加算税についても予納額分について賦課されるべきではない旨主張する。
しかしながら、本件地価税に延滞税が賦課されないのは、控訴人の平成七年一〇月三一日付けの一五七万五七〇〇円の納付が、国税通則法五九条一項二号に該当する予納として取り扱われ、国税通則法基本通達五九条関係四は、「国税の予納をした場合において、その国税に延滞税又は利子税が課されるときは、その延滞税又は利子税の計算の終期は、予納をした日とする。」としているからであって、右納付によって本件地価税が確定したからではない。また、無申告加算税については、予納があった場合に、右のような取扱いをする旨の規定はない。加えて、延滞税(国税通則法六〇条)は、国税債務の納付遅延に対する制裁的な附帯税であり、無申告加算税(同法六六条)は、適法な申告をしない者に対して加算税を課すことによって納税義務違反を防止する附帯税であって、その趣旨及び目的は異なるのであるから、そもそも、延滞税が課されないことをもって、無申告加算税が課されないとする理由はない。
よって、控訴人の右主張は、失当であって、採用することができない。
5 控訴人は、控訴人が平成七年一〇月三一日に納付した地価税額一五七万五七〇〇円のうちには、同年一一月一日以降平成八年三月三一日までの期間の地価税額七八万七〇〇〇円が含まれているので、所得税に係る予定納税額の第二期分と同様に、国税通則法五九条一項一号に規定する予納額として取り扱うべきである旨主張する。
しかしながら、前示のとおり、本件地価税が確定したのは、本件申告書が提出された平成七年一一月七日であって、控訴人が同年一〇月三一日に納付した一五七万五七〇〇円のうち、同年一一月一日から平成八年三月三一日までの期間の地価税額七八万八七〇〇円について国税通則法五九条一項一号の予納額として取り扱われるのは、平成七年一一月七日以降であって、それ以前は、同項二号の予納額として取り扱われるにすぎないのである。
よって、控訴人の右主張は、失当であって、採用することができない。
6 以上のとおりであって、控訴人の争点1についての主張はいずれも失当であり、本件において、被控訴人には、本件処分について、無申告加算税の算定の基礎となる納付すべき税額の算定を誤った違法はない。
二 争点2(被控訴人には、本件処分について、無申告加算税を賦課するに際して適用すべき税率を誤った違法があるか否か)について
1 <証拠略>によれば、次の事実を認めることができる。
(一) 控訴人は、高見税理士をして、平成六年一〇月三一日、被控訴人に対し、平成六年分地価税の申告書を提出し、また、同日、被控訴人を通じて国に対し、平成六年分の地価税と記載された納付書によって、平成六年分の地価税八六万四七〇〇円を納付した。
(二) 被控訴人は、控訴人から提出された平成六年分地価税の申告書、平成六事業年度分(平成六年四月一日から平成七年三月三一日まで)の確定申告書、不動産登記簿及び内部資料等に基づいて、調査をし、控訴人は平成七年分地価税の申告が必要であると判断した。そして、被控訴人は、控訴人に対し、平成七年九月一一日、平成七年分地価税の申告書用紙を送付した。その際、被控訴人は、右送付について、資産課税第一部門で作成した申告書発送等整理簿<証拠略>に控訴人を登載した。
(三) 被控訴人は、平成七年一一月二日から同月六日の間、無申告者リスト<証拠略>を作成し、申告書発送等整理簿に登載して平成七年分地価税の申告書用紙を送付した者で、地価税の申告が法定申告期限である同年一〇月三一日までにされなかった者を登載し、その上で、申告の要否等の事情を個別に調査して、その結果を記載していた。被控訴人は、控訴人について、同年一〇月三一日までに、平成七年分地価税の申告書の提出がなかったので、無申告者リストに控訴人を登載した。
(四) 被控訴人の資産課税第一部門の事務官である藤原啓明(以下「藤原事務官」という。)は、同年一一月七日午前、控訴人の関与税理士であった高見税理士の事務所に電話をし、高見税理士が不在であったので、その事務員に対し、控訴人の平成七年分地価税の申告について高見税理士が関与していることを確認した上、控訴人の平成七年分地価税の申告書が提出されていない旨伝えた。
(五) 高見税理士は、同日午後、浜松西税務署を訪れ、藤原事務官に対し、控訴人に係る平成七年分地価税の申告書の提出を失念していた旨述べた上、右同日午後、被控訴人に対し、本件申告書を提出した。
右認定に反する証拠は採用することができず、また、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
2 控訴人は、被控訴人の資産税担当者は、控訴人が本件申告書を提出した平成七年一一月七日までに、本件地価税に係る調査に着手した事実はなく、控訴人の期限後申告書の提出は、国税通則法六六条三項の調査があったことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでない場合に該当する旨主張する。
3 しかしながら、国税通則法六六条三項は、「期限後申告書又は第一項第二号の修正申告書の提出があった場合において、その提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでないときは、その申告に基づき第三五条第二項の規定により納付すべき税額に係る第一項の無申告加算税の額は、同項の規定にかかわらず、当該納付すべき税額に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した金額とする。」と規定しているところ、右「調査」とは、課税庁が行う課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程の一切を意味するものであり、課税庁の証拠書類の収集、証拠の評価あるいは経験則を通じての課税要件事実の認定、租税法その他の法令の解釈適用を経て決定に至るまでの思考、判断を含む包括的な概念を意味すると解すべきことは原判決の説示するとおりである。
そして、本件においては、右1で認定した事実によれば、(一) 被控訴人の資産課税第一部門の職員は、平成七年一一月二日から同月六日までの間、無申告者リストを作成し、これに控訴人を登載するなど、控訴人の平成七年分地価税の申告の有無について調査に着手していたこと、(二) 被控訴人の資産課税第一部門の藤原事務官は、控訴人の関与税理士である高見税理士の事務所に電話をし、その事務員に対し、控訴人の平成七年分地価税の申告書が提出されていない旨伝えたこと、(三) 高見税理士は、同日午後、浜松西税務署を訪れ、藤原事務官に対し、控訴人に係る平成七年分地価税の申告書の提出を失念していた旨述べた上、本件申告書を提出したことなどを認めることができ、これら認定した事実によれば、被控訴人は、控訴人の平成七年分地価税の申告に係る調査に着手し、この調査を端緒として、控訴人は、期限後申告である本件申告書の提出をしたことは明らかである。そうすると、本件においては、控訴人の主張するように国税通則法六六条三項に規定する要件があると認めることはできない。
よって、控訴人の右主張は、失当であって、採用することができない。
4 以上のとおりであって、控訴人の争点2についての主張は失当であり、本件において、被控訴人には、本件処分について、無申告加算税を賦課するに際して適用すべき税率を誤った違法はない。
第四結論
以上によれば、原判決は相当であって、控訴人の本件控訴は理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 伊藤瑩子 鈴木敏之 小池一利)
【参考】第一審(静岡地裁 平成九年(行ウ)第二四号 平成一一年二月一二日判決)
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告が、原告に対し、平成七年一一月二〇日付でなした平成七年分の地価税にかかる無申告加算税の賦課決定処分を取り消す。
第二事案の概要
本件は、被告が原告に対し平成七年分の地価税につき無申告加算税の賦課決定処分(以下「本件処分」という。)をしたところ、原告が、平成七年分の地価税は法定申告期限以前に予納したから申告自体が法定期間内になされなくとも無申告加算税を課すべきでない、原告は被告の税務調査前に自発的に地価税の申告をしたから無申告加算税を課すべきでない等と主張して、本件処分の全部または一部の取消を求めた事案である。
一 争いのない事実等(なお、書証によって、認定した事実については、適宜書証番号を掲記する。)
1 本件処分の経緯
(一) 原告は建築工事業を営む株式会社であるが、被告から平成六年分の地価税の申告書用紙の送付はなかったものの、地価税の申告が必要であると判断し、申告手続を高見功祐税理士に依頼し、同税理士を介して被告から地価税の申告書用紙の交付を受け、平成六年一〇月三一日、原告の保有する土地等の課税価格が一二億八八二六万二〇六八円、地価税の額が八六万四七〇〇円と記載された申告書を被告に提出し、地価税と記載された納付書により平成六年分の地価税八六万四七〇〇円を同日納付した<証拠略>。
(二) 被告は、原告から提出された平成六年分の地価税の申告書、平成六事業年度(平成六年四月一日から平成七年三月三一日)分の確定申告書及び内部資料等に基づき、原告の平成七年分の地価税の申告の要否等について検討した結果、申告が必要であると判断し、申告が必要と思われる納税者をリストアップした申告書発送等整理簿に原告を記載するとともに、平成七年九月一一日、原告に対し、申告書用紙を送付した<証拠略>。
(三) 原告は高見税理士の指示に従い、被告を通じて国に対し、同年一〇月三一日、平成七年分の地価税と記載のある納付書により一五七万五七〇〇円を支払った。
(四) 被告は、その後平成七年分の地価税の法定申告期限である平成七年一〇月三一日までに申告書の提出のなかった原告を含めた納税者を抽出して無申告者リストを作成し、納税義務の有無、郵便による適法な申告の有無、転出の有無等の事情を個別的に調査把握するものとしていた<証拠略>。
(五) 被告の資産課税担当職員は、平成七年分の地価税の法定申告期限を経過したにもかかわらず、原告から地価税の申告書の提出がなかったため、同年一一月七日午前中に原告の前年の関与税理士であった高見税理士の事務所に連絡したところ、同税理士が不在であったために、その事務員に対し、原告の平成七年分の地価税の申告について同税理士が関与していることを確認した後に、同税理士が同申告書を提出したかについて確認して欲しいと伝えた。これを受けて高見税理士が確認した結果、同税理士が同申告書の提出を失念していたことが判明したため、同税理士は、同日午後に地価税の額を一五七万五七〇〇円と記載した平成七年分の地価税申告書を被告に提出した<証拠略>。
(六) 被告は、原告に対し、平成七年一一月二〇日付けで、平成七年分の地価税に係る無申告加算税の額を二三万五五〇〇円とする本件処分をなし、その通知書が同月二一日原告に送達された。
2 異議申立及び審査請求
(一) 原告は、本件処分を不服として、平成八年一月二〇日、被告に対し異議申立をしたところ、被告は、同年四月一七日付けで棄却決定をした。
(二) 原告は、同棄却決定を不服として、同年五月七日、国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、同所長は平成九年九月三〇日付けでこれを棄却する旨の裁決をし、同年一〇月三日、同裁決書謄本が原告に送達された。
二 争点
原告は、本件処分が違法である理由として、被告は無申告加算税の算出の基礎となる納付すべき税額の算定を誤った(以下、「争点一」という。)、被告は無申告加算税を課するに際して適用すべき税率を誤った(以下、「争点二」という。)との二点を主張した(本件処分の内その余の点は争わない。)。
1 争点一に係る原告の主張
(一)(1) 原告は平成七年分の地価税と記載のある納付書により、法定申告期限内である平成七年一〇月三一日に一五七万五七〇〇円を納付し、かつ、被告もこれを適法な納付として処理しているが、地価税の納付が適法なものであるならば、同納付額は無申告加算税の算出の基礎となる納付すべき税額から控除されるべきである。その結果、無申告加算税の算出の基礎となる納付すべき税額は零となる。
(2) また、本件処分の根拠となった国税通則法六六条一項、三五条二項一号は法定申告期限後に申告書の提出と同時に納付がなされる場合を前提とした規定であるから、本件のように法定申告期限内にすでに地価税の納付がなされており、申告書のみが法定申告期限後になされた場合には適用されないものと言うべきである。
(3) 原告が平成七年一〇月三一日になした納付が予納に該当するとした場合であっても、附帯税のひとつである延滞税において予納額分について賦課されることがないことからすると、同じく附帯税である無申告加算税(国税通則法二条四号)についても同様に予納額分について賦課されるべきではない。
(4) 所得税の確定申告においては、予定納税額は年間の所得に係る所得税額から控除して申告書に記載するものとされているが(所得税法一二〇条一項七号)、右の控除すべき予定納税額は、国税通則法五九条一項一号に規定されている予納額に該当し、この取扱いは、期限内申告と期限後申告において区別されてはいない。
そして、国税通則法五九条一項一号、二号の予納額については、ともに国税として納付する旨を税務署長に申し出て納付する適法な納付であることを理由として還付請求することができないとされているのであるから、両予納額の法的性格を別異に取り扱うべきではない。
原告が平成七年一〇月三一日になした納付が国税通則法五九条一項二号に規定されている予納額に該当するとすれば、右予納額については、期限後申告であったとしても、納付すべきものとして記載した税額から控除すべきである。
(二) 仮に右主張が認められないとしても、本件申告書によれば、原告が平成七年分の地価税の法定申告期限までに納付すべき税額は七八万八七〇〇円とされ、第二回目の法定納期限(平成八年三月三一日)までに納付すべき税額が七八万七〇〇〇円とされているが、このような場合の無申告加算税の基礎となる税額については、法定申告期限までに納付すべき税額である七八万八七〇〇円とされるべきである。
2 争点二に係る原告の主張
国税通則法六六条三項は、「期限後申告書―(中略)―の提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してなされたものでないときは、その申告に基づき第三五条第二項の規定により納付すべき税額に係る第一項の無申告加算税の額は、同項の規定にかかわらず、当該納付すべき税額に百分の五の割合を乗じて計算した金額とする」と定めているが、同項にいう「調査」とは、実地あるいは面接調査等外部からこれを認識しうべき具体的な調査を指し、税務官庁内部の調査手続を含まないものと解するべきである。
特に、地価税法二五条一項によると、課税価格が基礎控除の額を超えない限り申告書の提出は不要であるところ、課税価格は常に変動するため、地価税に係る無申告加算税課税価格については実地調査をしなければ、課税価格や申告の要否について決定することができないのであるから、地価税に係る無申告加算税の適否を検討するためには、実地調査を行うことが必要不可欠というべきである。
この点、被告は、前記のとおり、平成七年九月一一日に原告に対して平成七年分の地価税の申告書を送付し、また、同年一一月七日に高見税理士事務所の職員に対し、電話による照会をしたにすぎず、実地調査及び反面調査等を行った事実はない。
また、地価税の算定が専門的でありその作業には相当期間を要することや原告保有の土地の多くが販売用で前年の決算書においてもその変動は把握できないのであるから、被告のなした申告書用紙の送付は、原告において申告が必要な場合に申告書の提出を促す程度の意味しか有しない。
さらに、被告が前年の原告の申告書等の資料に基づいて調査し、原告が平成七年分の地価税の申告をすることが必要と判断したことは、被告の行政サービスの一環にすぎず、被告が原告が法定申告期限内に地価税の申告をしているか否かについて「申告書発送等整理簿」及び「無申告者リスト」に基づき調査したことは被告に課せられている日常の業務にすぎない。
以上によれば、被告は国税通則法六六条三項に規定する「調査」を実施したものとはいえず、原告の平成七年分地価税の期限後申告書の提出は「調査があったことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでない」場合に該当するから、原告に課される無申告加算税の額は、当該納付すべき税額に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した金額によるべきである。
第三争点に関する判断
争点に関する当裁判所の判断は、争点に係る原告の主張に対する被告の反論を概ね採用したものである。以下各争点毎に判断を示す。
一 争点一に係る原告の主張について
1 (一)について
(一) (1)について
国税通則法六六条一項は、次の各号に該当する場合には、当該納税者に対し、当該各号に規定する申告、更正又は決定に基づき第三五条二項(期限後申告等による納付)の規定により納付すべき税額に一〇〇分の一五の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する(ただし、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合は、この限りでない。)とし、その一号で、期限後申告書の提出又は第二五条(決定)の規定による決定があった場合を規定している。
そして、国税通則法三五条二項は、次の各号に掲げる金額に相当する国税の納税者は、その国税を当該各号に掲げる日までに国に納付しなければならないとし、その一号で、期限後申告書の提出により納付すべきものとしてこれに記載した税額については期限後申告書を提出したときまでに国に納付しなければならないと規定している。
以上によれば、国税通則法六六条一項に規定する「第三五条二項(期限後申告等による納付)の規定により納付すべき税額」とは、期限後申告書に納付すべきものとして記載された税額を意味するものというべきである。
この点、地価税については、その申告書に地価税の額を記載するものとされているところ(地価税法二五条一項二号)、本件においては前記のとおり、原告は、平成七年分の地価税の期限後申告書において、納付すべき税額として一五七万五七〇〇円と記載していたものである。
ところで、原告は、平成七年分の地価税と記載のある納付書により、法定申告期限内の平成七年一〇月三一日に一五七万五七〇〇円を納付しているが、右納付については、納付書において平成七年分地価税と指定されていたことから、最近において納付すべき税額の確定することが確実と認められたため、平成七年分の地価税の予納として取り扱われ(国税通則法五九条一項二号)、その後、原告が同年一一月七日に期限後の平成七年分の地価税の申告書を提出したことにより、原告の同年分の納付すべき地価税の額が確定したために、右確定税額に右予納額が充当されるに至ったものであって、右納付があったからといって、原告の申告義務が免れると解することはできないし、また、期限後申告書に納付すべきものとして記載される税額が左右されると解することもできない。
そうであれば、原告が平成七年分の地価税と記載のある納付書により、法定納期限内の平成七年一〇月三一日に一五七万五七〇〇円を納付していたとしても、被告が国税通則法六六条一項に規定する「第三五条二項(期限後申告等による納付)の規定により納付すべき税額」を一五七万五七〇〇円であると認めて、右同額を基礎になした本件処分については、違法であるということはできず、原告の主張(1)は採用することができない。
(二) (2)について
国税通則法六六条一項、三五条二項一号が法定申告期限前にすでに地価税として予納がなされている場合をことさらに除外していないことは法文上明らかであり、また、法定申告期限前にすでに地価税として納付がなされており、これが予納として取り扱われたとしても、前記のとおり、申告書が提出されていない以上、納付すべき税額が確定せず、また、右納付によって地価税の申告義務が免れるわけでもないから、原告の主張(2)は理由がない。
(三) (3)について
延滞税は国税債務の納付遅延に対する制裁的なものであるのに対し、無申告加算税は適法な期限内申告をしない者に対する行政制裁というべきであり(国税通則法六〇条一項一号、六六条一項一号)、その制度趣旨を異にするものであるから、延滞税が賦課されない扱いとなっているからといって無申告加算税が賦課されるべきでないということはできず、原告の主張(3)は理由がない。
(四) (4)について
予定納税に係る所得税については、その年の六月三〇日の経過により納税義務が成立し、特別の手続を要せずして税額が確定することから(国税通則法一五条二項、三項、同法施行令五条一号)、確定申告書から控除すべきものとされ、また、国税通則法五九条一項一号によって還付請求することができないとされていると解されるが、前記のとおり、地価税については、法定申告期限後の申告書の提出によって初めて税額が確定するものであるから、予定納税にかかる所得税の扱いとは前提が異なる。
また、国税通則法五九条一項一号は、納付すべき税額の確定した国税で、その納期限が到来していないものについて還付請求を許さないとするのに対し、同項二号は、最近において納付すべき税額が確定することが確実であると認められる国税について還付請求を許さないとするものであるから、両号における予納額についてはその法的性格を全く異にするものである。
そうであれば、原告の主張(4)については前提を欠くものといわざるをえないから、採用することができない。
2 (二)について
前記のとおり、地価税については申告書の提出によって国税通則法六六条一項に規定される納付すべき税額が確定されるところ、その申告書には単に「地価税の額」を記載するものとされているのであるから(地価税法二五条一項二号)、右納付すべき税額については地価税の額全額を意味するものと解される。
他方、地価税法二八条については、同法二五条一項二号により納付すべき税額が確定したことを前提として、法定申告期限までに右地価税の額の二分の一に相当する金額、翌年三月三一日までに残額の納付を行うよう納付期限を定めたものにすぎないものと解される。
そうであれば、原告の主張(二)は採用することができない。
二 争点二に係る原告の主張について
1 国税通則法六六条三項は、「期限後申告書―(中略)―の提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでないときは、―(中略)―当該納付すべき税額に百分の五の割合を乗じて計算した金額とする」と規定しているが、同条項は無申告加算税の制度趣旨が申告秩序を維持し、適正な申告を促すための行政制裁であることにかんがみ、課税庁が手数をかけるまでもなく、納税者が自発的に申告を決意し、修正申告書ないし期限後申告書を提出した場合について、例外的に無申告加算税を軽減したものと解すべきである。
そうであれば、国税通則法六六条三項に規定される「調査があったことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでないとき」とは、税務職員がその申告に係る国税についての調査に着手して無申告が不適正であることを発見するに足るかあるいはその端緒となる資料を発見し、これによりその後の調査が進行して納税者がやがて決定に至るべきことを認識した上で期限後申告を決意して期限後申告書を提出したものではない場合を指すものというべきであり、また、右条項の「調査」とは、課税庁が行う申告義務の要否等を認定するに至る一連の判断課程の一切を意味するものであり、課税庁の証拠書類の収集、証拠の評価あるいは経験則を通じての課税要件事実の認定、租税法等の法令解釈を経て賦課決定処分に至るまでの思考及び判断を含む包括的な概念を指すものと解すべきである。
これに対し、原告は、同条項の「調査」とは、税務官庁内部の調査手続を含まず、実地あるいは面接調査等外部からこれを認識しうべき具体的な調査を指すものであると主張し、特に、地価税に係る無申告加算税の適否を検討するためには、実地調査を行っていることが必要不可欠であり、被告が前年の原告の申告書等の資料に基づいて調査し、原告が平成七年分の地価税の申告をすることが必要と判断したことは、被告の行政サービスの一環にすぎず、被告が原告が法定申告期限内に地価税の申告をしているか否かについて「申告書発送等整理簿」及び「無申告者リスト」に基づき調査したことは被告に課せられている日常の業務にすぎず、また、高見税理士への前記架電についても、申告書提出の有無の単なる照会にすぎず、国税通則法六六条三項に規定する「調査」には該当しないと主張した。しかしながら、このように限定的に解釈、運用することは、右のとおりの国税通則法六六条三項の趣旨に沿うものとは言い難く、また、無申告加算税が軽減される場合を不当に拡大するものであるから相当とはいえない。
2 なるほど、調査をそのように包括的な概念と解するときは、先の国税通則法六六条三項に規定される「調査があったことにより」云々「予知して」との因果関係が否定される場合も想定されないではないが、本件においては、前記のとおり、被告は、原告から提出された平成六年分の地価税の申告書、平成六事業年度分の確定申告書及び内部資料等に基づき、原告の平成七年分の地価税の申告の要否等について検討した上、その後平成七年分の地価税の法定申告期限である平成七年一〇月三一日までに申告書の提出のなかった納税者を抽出して無申告者リストを作成し、納税義務の有無、郵便による適法な申告の有無、転出の有無等の事情を個別的に調査把握するものとして、原告をこれに登載したに止まらず、このリストに従って順次具体的な調査が進められていた事実が認められるものであり(<証拠略>。しかも、原告は地価税として納付すべき税額があることを認めて予納をしていた。)、また、被告の資産課税担当職員は、法定申告期限を経過したにもかかわらず、原告から平成七年分の地価税の申告書の提出がなかったため、同年一一月七日の午前中に原告の前年の関与税理士であった高見税理士の事務所に連絡したところ、同税理士が不在であったために、その事務員に対し、原告の平成七年分の地価税の申告について同税理士が関与していることを確認した後に、同税理士が同申告書を提出したかについて確認して欲しいと伝えたことから、同税理士が同申告書を提出したというのである。
そうであれば、被告において、税務職員が申告に係る国税についての調査に着手して無申告が不適正であることを発見するに足るかあるいはその端緒となる資料を発見し、これによりその後の調査が進行したことから、原告がやがて決定に至るべきことを認識した上で期限後申告を決意して期限後申告書を提出したものと判断してなした本件処分については相当というべきであり、違法であるということはできない。
三 以上のとおり、原告の本件処分に関する違法の主張はいずれも理由がなく採用することができない。
第四結論
よって、本件請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 曽我大三郎 絹川泰毅 杉本宏之)